災害に強いバイクとは(経験談)

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さて。昨今のコロナ禍でガレージに引き籠ってばっかでやることも尽きて来たのでふと思った事を綴ります。

現状もなんだか災害に近い雰囲気がありますが、今回は物理的に街が破壊された災害時のバイク事情のお話。

 

もうあれから9年が経過しましたが私の住む宮城県石巻市東日本大震災で甚大な被害を受けました。

インフラが寸断され物資の供給も断たれ道端で焚火で暖を取る人、道端に横たわる御遺体に手を合わせる人…もう近代の日本国とは到底思えない状況でした。

 

そんな中で一般の被災者である私のとてつもなく心強い相棒となってくれた武器。それは一台のバイクでした。

 

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これは石巻市の沿岸部にある製紙工場の付近。本来なら道路と工場の広い駐車場があったのに破壊された家屋が押し流されてきて見る影もない。

 

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まるで絨毯爆撃を受けたような有様。ここ一帯は平和な街だったんだぜ?

 

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有難い事に全国からのご支援で最低限の移動路は迅速に確保されたけど…

 

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私の当時の愛車レガシィツーリングワゴン。3月11日から1か月近く経ってようやっとこの状態で発見しました。

 

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自宅はと言うとこんな状態。幸い津波の直撃は無かったけど押し寄せた水が1週間近く引かなかった。田舎ゆえ移動にクルマは欠かせない存在なんだけど大多数の地域住民はクルマがダメになってしまっていた。

物資も食料も水も待っているだけでは手に入らない。動かなければ…短い間ではあったけどマジモンのサバイバル生活の幕開けでした。

 

しかしウチには一筋の希望があった。

スーパーカブまさにこの後SUPERな活躍をしてくれるのでした。

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もちろんガッツリと5日くらい水の中に沈んでました。だけど直ぐに走り出せそうな…そんな不敵なオーラがコイツにはあったのです

 

先ずはエンジンや燃料タンクからの水抜き。空間と言う空間からドバドバと水とオイルが出てくるけど何とか全て排出。エンジンオイルの代わりにたまたま捨てずにいた車のエンジンオイルの廃油を注入…それで何の問題も無くエンジンに火が入った。家にガソリンの水抜き剤があったのも幸いした。

 

そして電気系統。このC50カブは究極に単純かつ最小限な電気系統で助かった。バッテリー周りやヒューズの周辺は海水の影響もあって極短時間のうちに配線がボロボロに腐蝕しちゃってたけど、適当な電線を剥いて結んで適当なヒューズを結んで修理した。電気が無くてハンダが使えないから文字通り結んだ。そしたらあっさりと全ての電気系統が復活した。

もちろんバッテリーは捨てたけど元々エンジンはキックスタートだしアイドリング時にちょっと灯火類が暗くなってウインカーの作動が不安定にる程度の弊害しかないから実質問題ない。強すぎる

 

エアクリーナーも泥と油が詰まって使い物にならないから捨てた。燃調が狂ったけどエアスクリューを何回か調整したら調子が戻った…

たったそれだけで水没前と変わらぬ完調 

さすが世界のスーパーカブだ。タフ過ぎる💧

 

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当時の燃料難でも何ら困る事はなかった。ウチどころか近隣全てのクルマが全部廃車になっちゃったから燃料タンクには超低燃費なカブで使うには十分過ぎる備蓄があった。当時から自分はこんな調子だったから近所の人もガソリンの抜き取りを勧めてくれた(笑)

しかし水混じりだから一旦ペットボトルに移して上澄みのガソリンだけを選別してカブの燃料に。もうカブを運用するに当たって何の問題も無くなった。

 

そして、カブの真骨頂はまさにここからだった。

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当時、水道も止まってたから遠くの給水所から水を持ってくるのが日課だった。そこで18Lポリタンクをリア・フロントのキャリアに搭載して左手でも持って合計3缶、実に54Lもの水を一度に輸送出来た。

 

カブは雪駄を履いた蕎麦屋が左手に岡持ちを持って運転出来るように】って、とんでもない設計思想が盛り込まれてるから操作もコレで問題ない。だからクラッチ無しの足踏みロータリーミッションだし、ウインカースイッチが普通のバイクとは逆の右側スイッチボックスに付いてるんだよね。

 

その圧倒的積載量ゆえ、家の近所の商売柄防犯で家を空けられない人や高齢者に水や物資を配ったりなんかもした。生きる為のサバイバル状態ながらそんな余裕が生まれるくらいの機動性だった。

 

 

こうして移動の手段を確立出来た。次は荒れ果てた被災地を走るという事。

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凹凸は当然ながら普段じゃ想像付かない様々な障害物に満ち溢れてる。しかし17インチタイヤを履くスーパーカブは思いのほか走れちゃう。スピードが遅いのも幸いして危険かつ小さな障害物もある程度目視で交わせるし、軽くコンパクトな車体ゆえ人間が手を使わずに歩ける程度の瓦礫の上なら押して通り抜けも出来る。

 

タイヤがパンクしても修理は自転車レベルの難易度だし車体や機関部はそうそう壊れない。例え持ち主が手に負えなく思ってもカブを修理出来るバイク屋さんや自転車屋さんは田舎であろうが全国どこにでもある。

 

そして平時じゃ考えもしない事なのが地域住民の目。趣味性の高いバイクなら「何だアイツ?」って目を向けられるけどそこは所詮カブ。どこに行っても不審に思われる事はないレベルのステルス性(笑)

でも実はそこって結構重要な事なんですよね。皆がいろんな事にナーバスになってるから。

 

SNSなんかで度々、災害に強いバイクとは?なんて議論が出ると「オフ車でしょ!」か「そもそもバイクなんて役に立たない」の2つに分かれるのをよく見る。

しかし私は断言しよう。「キャブ車のカブこそ最強に役立つ」

この日本国内に於いて、これほどまでにサバイバルに特化したバイクなんてそうそう無いよ!

 

…ってのが災害らしい災害を経験した私の持論

参考になるか分からないけど参考にしてみてください

 

 

追記 2023年3月12日

毎年3月11日にはこの記事は私のTwitterに上げると決めてます。今年も多くの方にご閲覧頂きありがたく思ってます

この記事に出てきたカブはその後、移動の足が無く困ってた会社の同僚に譲りました。

 

その同僚も暫くして何とか車を買えたようでそこから半年ほど放置したらハンドルがゴリゴリに重い、ブレーキ固着、スロットル固着、燃料タンクが錆びる、灯火類のハーネス断線、フレームの内側から錆が侵攻してる…など、手の施し様がなくなり廃車にしたと連絡がありました。(それでもエンジンは掛かってたそうです。マジモンのバケモノだよこのバイク)

 

当時は生活の再建で本当にみんな忙しくて呑気にバイク弄ってる余裕なんて無いのは知ってたから。謝られたけどそれを咎めたりするとかそんな気は一切無く、むしろ少しの間でも役に立って良かった!と思ってました。

 

この極限の状況、バイクなんて動けば良いんです。必要な時にだけ動いてればそれで充分なんです

「早く動け!」その一心で復活させて“とりあえず動く”状態にして走り回った。もしかしたらあの時救った命もあったかもしれない。水や食糧を近所の人たちに配って何度ありがとうと感謝された事か覚えてない

 

バイク大好きな私。あの時はバイクに対して冷酷になりすぎたと思う所はあるけど命は、生活はもっと大事。

それを繋ぐには動き出すまでのスピードが肝心で、たまたまスーパーカブを持ってて幸運だっただけ。つまるところそんなお話しでした